その夜、僕はリビングで父と向き合って座っていた。沙織はキッチンでお茶を用意してくれていたが、わざと席を外してくれたのだろう。父と僕だけの時間が静かに流れていた。
「……沙織が、お前をよく理解してるのは分かる。」
父はゆっくりと口を開いた。
「でもな、優斗。俺はどうしても、女装が普通だって考えられないんだ。お前のことを認めたいと思ってるが、それが簡単じゃない。」
父の苦悩がその言葉から伝わってきた。僕は、自分の思いをしっかり伝えなければいけないと感じた。
「僕も、父さんの気持ちは分かるよ。でも、女装をしているときの僕は、本当の僕なんだ。」
その言葉に、父は眉をひそめた。
「本当の自分……か。」
僕は勇気を振り絞って続けた。
「父さんがどう感じるかは分からない。でも、僕にとっては自分を見つけるための一部なんだ。どうか、それを否定しないでほしい。」
父はしばらく黙っていたが、やがて深いため息をついた。
「分かった。少し時間をくれ。ただ、約束してほしい。自分のために女装をするなら、それをちゃんと大切にしろ。」
その言葉は、父なりの妥協と理解の表れだった。僕は小さく頷き、「ありがとう」とだけ言った。