その日の夕方、奏が女装サロンにやってきた。葵と涼が話していたことを知らないはずの彼女は、どこか落ち着かない様子だった。
「涼、最近なんだか元気がないように見えるけど、大丈夫?」
涼は無理に笑顔を作りながら答えた。
「大丈夫だよ。ただ、ちょっと考えることがあってね。」
奏は涼の言葉に納得したようなしないような表情を浮かべたが、それ以上は問い詰めなかった。しかし、彼女の胸には小さな違和感が残ったままだった。
その夜、奏は一人で部屋に戻り、窓の外を眺めながら考えた。
(涼の心、もしかして揺れているのかな…。私だけじゃなくて、葵のことも気にしている?)
自分の中に芽生えた不安を振り払うように、奏は強く拳を握った。
(でも、私は諦めない。涼と出会ってからのこの気持ちを大切にしたいから。)