「女装サロンラビリンス」の存在が広く知られるようになるにつれ、そこにはさまざまな期待やプレッシャーが押し寄せるようになった。悠斗は日々、サロンを訪れる新しい客たちを歓迎しながらも、その裏で璃音の抱える負担を感じ取っていた。

新たな訪問者

ある日、サロンにまた一人、新しい訪問者が現れた。彼女――いや、彼は初めての緊張した様子を隠せないまま、店内を見渡していた。

「初めてなんですけど……ここ、本当に大丈夫なんですよね?」

悠斗は笑顔を浮かべながら答えた。

「もちろんです。ここは『女装サロン』、誰でも安心して自分を表現できる場所ですから」

その一言で訪問者は少しだけ肩の力を抜いた。名前は「薫(かおる)」、ずっと女装に憧れていたものの、一歩踏み出す勇気がなかったという。

薫のように、ラビリンスに来る人々の中には「女装サロン」という言葉を初めて知り、自分を表現したいと願う人たちが増えていた。それはサロンの存在が、外の世界でも認められつつあることを示していた。

サロンの成長と矛盾

しかし、人気が高まるにつれて、サロン内にも微妙な変化が生じ始めた。

「最近、ちょっと忙しすぎる気がするんだよな……」

慧が呟いたその言葉に、悠斗も頷いた。

「確かに……『女装サロン』って、本来はもっとゆっくり自分を見つける場所だった気がしますよね」

璃音もまた、急激に広がるサロンの評判に心を痛めていた。

「大切なのは、ここにいる人たちが自分を見つけられること。でも、それを見失いそうになることが怖いの」

彼女のその言葉には、かつて真琴と共にこのサロンを作り上げた記憶がにじんでいた。ラビリンスはただの「女装サロン」ではなく、彼女自身の人生そのものだった。

選択の時

そんな中、外部からの干渉も増え始めた。前回訪れたスーツ姿の男――彼がまた現れ、璃音にある提案を持ちかけた。

「璃音さん、この『女装サロンラビリンス』をもっと大きくしませんか? 私たちが支援すれば、さらに多くの人に利用してもらえますよ」

その提案は、一見すると魅力的だった。だが、それがサロンの本質を変えてしまう可能性を秘めていることを、璃音も悠斗も理解していた。

「サロンが大きくなれば、それだけでいいわけじゃないわ。この場所は、ただ人が集まるだけの場所じゃないの」

璃音の言葉に男は一瞬だけ目を細めたが、すぐに微笑みを浮かべた。

「なるほど、ではまた別の機会に」

仲間たちとの会議

その夜、璃音はサロンの常連たちを集めて話し合いの場を設けた。慧、美夜、朱里、そして悠斗も加わり、それぞれが意見を交わした。

「『女装サロン』は、みんなにとってどんな場所なのか。それを改めて考えたいの」

璃音の言葉に、全員がそれぞれの思いを語った。

「ここは、自分を見つける場所だよ。他の人にどう思われるかじゃなくて、自分がどう思うかを大切にできる」

「でも、それだけじゃ守れないこともある。人気が出たら、それを利用しようとする人も現れる」

議論は深夜にまで及んだが、全員が一致していたのは、サロンがただの「商業施設」ではないということだった。

新しいチャレンジ

その後、悠斗は璃音と共に、サロンの本質を守りながら成長させるための新たなプロジェクトを立ち上げることを決意した。それは、「女装サロンラビリンス」を舞台にした体験型イベントの開催だった。

「ここで得た体験を外の世界に持ち帰ってもらう。それがサロンの価値を伝える一番の方法だと思う」

イベントは、サロンの常連たちがそれぞれの「女装体験」を語る場となり、多くの人々に自分自身を見つめ直す機会を提供するものとなった。

未来への道

イベントは大成功を収め、多くの新しい仲間たちがラビリンスを訪れるようになった。一方で、璃音と悠斗は、サロンの未来について新たな責任を感じていた。

「『女装サロンラビリンス』は、ただの場所じゃない。ここに来る人たちが、それぞれの人生を変えるきっかけを見つける場所なんだ」

悠斗のその言葉に、璃音も静かに頷いた。

「そうね。そして、その未来を作るのは私たち次第よ」