璃音と悠斗が「女装サロンラビリンス」の夜を語り合うようになってから、二人の間には新しい絆が生まれていた。だが、その絆はまだ静かで控えめなものだった。お互いにサロンの成功を第一に考えているからこそ、個人的な感情を表に出すことには慎重にならざるを得なかったのだ。

璃音の過去

ある日、閉店後のサロンで、璃音は自分の過去について話し始めた。

「悠斗、私がどうして『女装サロンラビリンス』を始めたのか、知りたい?」

悠斗は驚きながらも頷いた。

「もちろんです。璃音さんの想いを、もっと知りたいと思っていました」

璃音は少し微笑みながら、目を伏せて語り始めた。

「私、昔はとても保守的な家庭で育ったの。『女らしく』『ちゃんとした女性でいなさい』ってずっと言われてきてね。でも、私はその期待に応えられない自分を責めていたわ。自分の居場所が見つからなくて、どうしていいか分からなかった」

璃音の声は少し震えていた。

「そんな時に出会ったのが、初めて行った『女装サロン』だったの。その場所では、私のように外見や内面に迷いを抱える人たちがいて、みんな自由に自分を表現していた。初めて、自分を許していいんだって思えたのよ」

悠斗は真剣に聞き入っていた。璃音が抱えてきた苦しみや迷いが、今の彼女を作り上げたのだと理解した。

「それで、私は決めたの。この『女装サロンラビリンス』を、私と同じように悩んでいる人たちの居場所にしようって」

璃音の目は力強く輝いていた。その想いに触れた悠斗は、胸が熱くなるのを感じた。

「璃音さん……僕がここにいるのは、きっとそれが理由なんですね。僕もこの場所で、自分を少しずつ解放できている気がします」

悠斗の告白

悠斗もまた、自分の想いを語り始めた。

「僕が最初に『女装サロン』に来た理由は、単なる興味本位でした。でも、ここで初めて女装をしてみた時、不思議な気持ちになったんです。服を着替えるだけで、こんなにも自分が変わるんだって驚いて……」

「それだけじゃなくて、ここにいる人たちの優しさや、璃音さんの情熱に触れるうちに、ただの興味じゃ済まなくなりました。僕もこの場所の一部になりたいって思うようになったんです」

璃音は静かに頷いた。

「悠斗がいてくれること、本当に感謝してる。あなたがいなかったら、サロンはここまで成長していなかったわ」

悠斗は少し照れくさそうに笑った。

「それはお互い様ですよ。僕がここで頑張れるのは、璃音さんの夢があったからです」

新たな挑戦

その後、サロンでは新しいプロジェクトが始まった。それは、「女装」をテーマにした地域交流イベントの開催だった。これまでサロンの外では閉じた空間だった「女装サロン」の文化を、もっと広く知ってもらおうという試みだった。

璃音と悠斗は、この企画の中心に立っていた。準備は大変だったが、二人で意見を出し合い、協力して進めていくうちに、自然とお互いの絆が深まっていった。

「璃音さん、これで本当にいいんですか?ちょっと派手すぎる気がするんですけど……」

「大丈夫よ、悠斗。こういう派手な演出もたまには必要なの。『女装サロン』の魅力は、自由であることなんだから」

悠斗は微笑みながら頷いた。璃音の大胆さが、時には彼を驚かせるが、それが彼女の魅力でもあると感じていた。

心の距離が近づく夜

イベントの準備がすべて終わった夜、二人はサロンの片隅で一息ついていた。

「悠斗、今日はありがとう。あなたがいなかったら、ここまで来れなかったわ」

「いえ、璃音さんこそ。僕にとって、ここは特別な場所です。璃音さんと一緒に働けることが、僕の誇りですから」

璃音はその言葉に少し頬を赤らめた。

「私たち、良いチームね。でも、時々思うの。私がサロンに全てを捧げすぎて、他のことが見えなくなっているんじゃないかって」

悠斗は璃音の手をそっと取った。

「璃音さん、サロンは大切です。でも、璃音さん自身ももっと大切にしてください。僕も、そのためにここにいるんです」

璃音はその言葉に、心が揺さぶられた。彼の真っ直ぐな気持ちが、自分の中にある迷いを少しずつ溶かしていくようだった。

二人の新しいステージ

「女装サロンラビリンス」は、地域のイベントを通じてさらに多くの人々に知られるようになった。その成功を祝う夜、璃音と悠斗は並んで座り、語り合った。

「璃音さん、僕はこれからもサロンのために頑張ります。でも、それ以上に璃音さんのために力になりたい。だから……いつか、僕の気持ちをちゃんと伝えたいと思ってます」

璃音は少し驚いたが、やがて微笑みを浮かべた。

「その時を楽しみにしてるわ。でも、今はまだこのサロンをもっと素晴らしい場所にするために、一緒に頑張りましょう」

「はい、璃音さん!」