9,慶次と兼続の事情シリーズ①『親友の秘密』
慶次は、静かに口を開く。
「兼続。どういうことか、説明してくれ」
女装をしている姿では、絶対に出会いたくなかった親友が目の前にいる。いずれは話すつもりではいたが、だが、その時がこうも突然にやってくるとなると、何をどうしたら良いのか、全く分からなかった。
「まず、あそこに入って二時間、何をしていたんだ?」
慶次の口調は、責めているわけでも、嘆いているわけでもなかった。なぜなら、慶次だって驚きのあまりに、何を喋っているのか、自分でもあまり理解できていなかったのだから。
「ラビリンスっていう……女装サロンなんだ……あそこ」
普段の冷静な兼続なら、どこから付けられていたのかとか、二時間も見張っていたのかとか、色々とツッコミを入れていたことだろう。しかし、今の二人は、まるで初対面の男女のような緊張感で対面しているのだから、そのような余裕など微塵もあるわけがない。