「優斗、部屋に入るわよ。」

継母の沙織が、控えめなノックとともに声をかけてきた。僕は慌ててクローゼットの扉を閉めると、机に戻り、何事もないように数学の教科書を開いた。

「何してたの?」

沙織がドアを開け、涼やかな笑みを浮かべて入ってくる。継母になってまだ一年しか経っていないけれど、沙織はどこか距離を感じさせない人だった。

「別に、勉強してただけだよ。」

声が裏返りそうになるのをこらえながら答えた。クローゼットの中には、僕が秘密にしているものが隠されている。それは、いくつかの女装用の服だった。スカート、ブラウス、ワンピース。すべてネットでこっそり買い揃えたものだ。

沙織は僕の机をちらっと見て、「そう。夕飯の準備ができたから降りてきてね。」とだけ言い、部屋を出ていった。その背中が見えなくなった瞬間、僕は大きく息を吐いた。

僕が女装に興味を持ち始めたのは、中学二年生の頃だった。クラスメイトの文化祭の衣装を手伝ったのがきっかけだった。リボンを結んだり、ドレスの裾を整えたりするうちに、いつの間にか自分でも着てみたいと思うようになった。

けれど、父には絶対に知られてはいけない。彼は「男らしさ」にうるさい人だ。母が亡くなった後、家事を手伝う僕にさえ、「そんなことは女のすることだ」と言い放った。だからこそ、僕は女装という自分の秘密を守り続けてきた。