ある土曜日の午後、父は出張で家を空けていた。沙織は庭仕事をすると言って家の裏にいる。絶好のチャンスだと思った僕は、こっそりクローゼットを開けた。

今日は一度も着たことのないレースのワンピースを試してみることにした。鏡の前に立ち、そっと袖を通す。柔らかな生地が肌に触れる感覚に、心が弾んだ。ウィッグをかぶり、少しだけ口紅をつけてみると、鏡に映る自分が別人のようだった。

「綺麗……」

思わずつぶやいたそのとき、背後でドアが開く音がした。

「優斗……?」

振り返ると、そこには驚いた表情の沙織が立っていた。僕の心臓は止まりそうだった。

「違うんだ、これは、その……!」

どう言い訳をすればいいのか分からず、僕はしどろもどろになった。

しかし沙織は、呆れるでもなく、怒るでもなく、優しい笑みを浮かべた。

「似合ってるわよ。そのワンピース。」

僕は驚きと戸惑いで言葉を失った。