数日後、涼が女装サロンラビリンスを訪れると、珍しく葵が一人で待っていた。
「涼、ちょっと話せる?」
いつも穏やかな葵の声が、その日は少しだけ強い決意を帯びていた。
「もちろん。どうしたの?」
涼がカフェスペースの椅子に腰掛けると、葵は真剣な表情で涼を見つめた。
「僕、ずっと迷ってた。でも、もう黙っているのは辛いんだ。」
涼はその言葉に驚き、息を飲んだ。葵が話を続ける。
「涼、僕は…君のことが好きだ。奏がいることはわかってる。でも、どうしても気持ちを伝えたかったんだ。」
その瞬間、涼の胸は大きく揺れ動いた。奏への想いと、葵への新たな感情。その狭間で、どう答えるべきか迷う自分がいた。
「葵…その気持ちは、嬉しいよ。でも、奏も…大切な存在なんだ。」
涼の曖昧な返事に、葵は寂しそうに微笑んだが、それ以上は何も言わなかった。ただ、「ありがとう」とだけ呟いて席を立った。