女装サロンラビリンスが閉店した後も、カフェスペースには三人の姿があった。いつもなら楽しい会話が続くはずの時間だったが、その夜はどこかぎこちない空気が漂っていた。
涼は、奏と葵の視線の間で揺れる自分を感じていた。二人に特別な思いを抱いていることを自覚しながらも、それをどう言葉にすればいいのかわからないまま、静かに紅茶のカップを傾けていた。
すると、奏が口を開いた。
「ねぇ、涼。次のイベント、また一緒に衣装を選んでくれる?」
彼女の言葉は、涼への想いを確かめるようなものだった。涼は一瞬だけ葵の方を見たが、すぐに奏に向き直り、微笑んだ。
「もちろんだよ。奏と選ぶの、楽しみにしてる。」
その言葉に、奏の顔は少しだけ明るくなったが、隣にいる葵の表情は曇ったままだった。その変化に涼は気づきながらも、何も言えずにただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。