「女装サロンラビリンス」の朝は、どこか特別な空気が漂っている。柔らかな光がサロン全体を包み込み、鏡に映るドレスやメイク道具たちが静かに輝いていた。璃音と悠斗は、今日も準備のために早くからサロンにいた。
「璃音さん、この新しいメイクパレット、すごく人気が出そうですね」悠斗が微笑みながら話しかける。
「そうね、これなら初心者でも使いやすいし、色合いも華やかだからね。『女装サロン』に来るお客様にも喜ばれるはずよ」璃音は手に取ったパレットを見つめながら答えた。
悠斗がこのサロンで働き始めてから、二人の会話はどんどん自然になっていった。しかし、その裏でお互いに秘めた感情があることを、どちらもまだ口に出せずにいた。
悠斗の戸惑い
悠斗は、女装サロンという特別な空間での日々を楽しみながらも、璃音への気持ちに戸惑っていた。彼女の笑顔を見るたびに、自分がここにいる理由が少しずつ変わっていることに気づく。
「このサロンに来たのは、ただ女装を楽しみたいと思ったからだった。でも今は、それだけじゃない」
悠斗は、自分が璃音の力になりたいと強く思うようになっていた。ただの同僚や仲間ではなく、もっと特別な存在になりたいという願いが心の中で膨らんでいた。
ある日、女装サロンの営業が終わった後、悠斗は思い切って璃音に尋ねた。
「璃音さん、どうしてこんなに女装サロンに情熱を注げるんですか?」
璃音は少し驚いた表情を見せたが、やがて微笑んで答えた。
「このサロンは、私にとって夢そのものだからよ。ここに来る人たちが、自分らしくいられる場所を作りたかったの。昔の私がそういう場所に救われたようにね」
その言葉を聞いた悠斗は、自分もまたこの場所に救われていることを実感した。そして、それ以上に璃音に惹かれている自分を抑えきれなくなっていた。
璃音の心の葛藤
璃音もまた、悠斗に対して特別な感情を抱いていることに気づいていた。しかし、それを素直に認めることができなかった。彼女にとって「女装サロンラビリンス」は、自分の全てを捧げるべき場所だった。恋愛に気を取られて、サロンの運営に支障が出るのではないかという不安があったのだ。
「悠斗は優しいし、一生懸命な人。だからこそ、私が曖昧な態度を取ったら、彼を傷つけてしまうかもしれない……」璃音は自分にそう言い聞かせていた。
だが、悠斗が真剣にサロンのために働いている姿を見るたびに、その想いは揺らいでいった。彼と一緒にいると、自然と笑顔になれる自分がいることに気づいてしまうのだ。
女装サロンが繋ぐ夜
ある夜、サロンで行われた小さなパーティーが終わった後、璃音と悠斗は片付けをしていた。静まり返ったサロンの中、二人だけの時間が流れる。
「璃音さん、今日は本当にお疲れ様でした。お客様、みんな楽しそうでしたね」悠斗が笑顔で言うと、璃音も頷いた。
「そうね。この『女装サロン』が、みんなにとって特別な場所であることを実感するわ」
その言葉を聞いた悠斗は、ふと思い切って口を開いた。
「璃音さんにとって、このサロンって何よりも大切な場所なんですよね?」
璃音は少し驚いたが、真剣な表情で答えた。
「そうよ。この『女装サロン』がなかったら、私はここまで来られなかったと思う。でも、最近は……」
「最近は?」悠斗が静かに促す。
璃音は少しの間黙っていたが、やがて小さな声で続けた。
「最近は、サロン以上に大切だと思える人がいることに気づいたの」
悠斗はその言葉に驚き、璃音の顔を見つめた。
「璃音さん……」
璃音は目を伏せたまま、静かに言った。
「悠斗、あなたがこのサロンに来てくれて本当に良かった。あなたがいることで、この場所がもっと特別になったのよ」
悠斗の胸は高鳴り、彼女の言葉を噛み締めた。そして、意を決して答えた。
「璃音さん、僕も同じ気持ちです。この『女装サロン』で過ごす時間も大切だけど、璃音さんと一緒にいる時間が何よりも大切なんです」
璃音はその言葉に少し涙ぐみながら微笑んだ。
新たな関係の始まり
その夜を境に、璃音と悠斗の関係は少しずつ変わり始めた。「女装サロンラビリンス」という舞台の中で、二人はお互いを支え合いながら、少しずつ新しい未来に向かって進んでいった。
璃音の夢と悠斗の想いが交わる場所――それが「女装サロンラビリンス」だった。
この物語の次章では、二人の関係がどのように発展し、サロンが新しい挑戦を迎えるかを描いていきます。続きをお楽しみに。