19,慶次と兼続の事情シリーズ①『親友の秘密』
そして無情にも、電車は田無に到着した。
本当に女装をしなければいけないのかとリマの横顔を見つめる慶次だったが、そう無言で問いかけていることを察したのか、
「ほら、降りるよ♪」
と、リマは慶次の左手首をガッチリと握って、席を立ったのだった。
その様子を見ていた向かいの座席のおばさんが、口元をほころばせていた。それもそのばず、行くことを面倒臭がる彼氏と、それとは対照的な表情をした彼女という、仲の良いカップルにしか見えなかったのだから。
それだけ、リマの女性としてのパス度が高いのだ。
歩き方や仕草まで、男性モードと女性モードを自在に切り替えることができるのだから、まさかリマの本名が兼続だなどと、誰が想像できよう。
慶次は連行される奴隷のように、電車から降ろされてしまった。