その日の午後、凛は一人で散歩に出かけた。優がテレビを見ている間、ひとり静かな時間を過ごすことが多くなった。結婚してからも、凛には未だに気になることがあった。

それは、凛が自分の過去をどれほどまでに優に話しているのか、ということだった。優に全てを話したわけではなく、過去の一部には未だに触れたくない部分があった。

凛は歩きながら、ふと思い出していた。若いころ、彼女は一度だけ、親友だった女性との関係で心を痛めた経験があった。

その女性とは、仕事で知り合ったのだが、凛は当時、彼女に対して本当の意味で愛情を持っていた。しかし、その女性には他の恋人がいて、凛の気持ちは報われることがなかった。

その経験があったからこそ、凛は優に対して深い不安を抱いていたのだ。優がいつか自分を離れてしまうのではないか、という恐れが心の奥底に根強く残っていた。

「私、また傷つくのが怖いんだ……。」

凛は静かに呟き、顔を上げるとふと遠くの景色が目に入った。その景色を見つめながら、彼女は心の中で優に告げた。

「優くん、私はまだ、あなたに心から全てを預ける勇気がないのかもしれない。」

しかし、その言葉を口に出すことはなかった。凛は一人、自分の気持ちと向き合っていた。