「あなたには女装サロンラビリンスに通う義務があります。」
その一文が記された黒い封筒を手にしたのは、思いがけない夜だった。日々の退屈な仕事に埋もれ、楽しみといえば週末のひとり酒くらいだった俺、隆也にとって、これほど意味不明なメッセージを受け取ることは、刺激以外の何ものでもなかった。
送られてきた差出人には「エリザベート」とだけ書かれていた。それが誰なのか心当たりはない。だが、封筒に同封されたメッセージの続きが、その疑問に一気に答えを与えた。
「私を思い出せないのなら、あの夜の足元をもう一度よく考えてみなさい。ヒールの音、そしてその後の声を。」
その瞬間、記憶が蘇った。3週間前のことだ。仕事帰りに誘われた少し怪しいバーで、ひときわ存在感を放っていた女性──全身を黒いレザーに包み込み、鋭い眼差しで周囲を威圧していた彼女、エリザベート。
バーで偶然会話が始まり、好奇心から少し話をしてみたのだが、気がつけば俺は彼女の足元で、無言の命令に従う形になっていた。なぜか、その瞬間を思い出すと胸がざわつく。
封筒の最後にはこう書かれていた。
「女装サロンラビリンスで、あなた自身を見つめ直しなさい。それが義務です。」