ファッションショーでの優勝を機に、女装サロンラビリンスの名はさらに広がり、より多くの人がサロンを訪れるようになった。新規の利用者が増えたことで、僕たち常連メンバーの役割も大きくなり、サロンを支える意識がより高まっていく。

その中で僕は、葵さんとの距離がますます近づいているのを感じていた。だが、まだ明確な「答え」をもらえていない以上、焦る気持ちもあった。


女装サロンラビリンスの日常

女装サロンラビリンスには、初めて訪れる人たちが次々と現れる。ある日、若い女性がサロンを訪れた。彼女は友人に誘われてきたらしく、女装に興味があると言っていた。

「女装サロンラビリンスに来て、本当に良かったです!こんな素敵な場所があるなんて思いませんでした。」

彼女のように、女性が訪れることも珍しくなくなっていた。女装サロンという枠にとらわれず、性別を問わず自分を表現できる場所としての魅力が広がっているのだ。

ユリカさんは楽しげに、
次は男の娘と普通の女の子でペアランウェイをやるのも面白いかもね!」
と笑いながら新しいアイデアを語っていた。


葵さんのもう一つの夢

ある日の閉店後、葵さんと二人で話す機会があった。静かなサロンでお茶を飲みながら、彼女はふと遠い目をして言った。

「実は、私にはもう一つの夢があるんです。」

「もう一つの夢?」

「はい。この女装サロンラビリンスを、もっと全国に広げたいんです。そして、どんな人でも自分を表現できる場所を作りたい。」

その言葉には、彼女の強い信念が込められていた。僕はその夢を聞いて、彼女がいかにサロンを愛し、利用者たちの未来を考えているのかを改めて感じた。

「その夢、僕も応援します。何でも手伝います!」

「ありがとうございます、優斗さん。でも……」
葵さんは少し笑いながら続けた。
「それには、もっともっと大きな覚悟が必要になるかもしれませんよ。」

その言葉には、彼女が抱える不安や責任の重さも含まれているように感じた。


ライバルからの挑戦再び

サロンの評判が高まるにつれ、またしてもライバルサロンからの挑戦状が届いた。今度は、合同イベントとして女装者たちのスピーチコンテストを開催するというものだった。

「テーマは『女装が私に与えたもの』です。皆さん、ぜひご参加ください。」

葵さんは迷うことなく参加を決め、サロンのメンバー全員に呼びかけた。僕もその中に選ばれたが、正直、スピーチをするのは不安だった。

「優斗さん、あなたならきっと大丈夫ですよ。」
葵さんにそう言われたことで、なんとか前向きに準備を進めることができた。


スピーチコンテストに向けて

スピーチの準備では、僕自身の経験や女装サロンラビリンスでの出来事を思い返しながら原稿を作った。初めてこの場所を訪れたときの緊張、葵さんや仲間たちと過ごした楽しい時間、そして女装を通じて自分を好きになるきっかけをもらったこと――その全てが詰まった内容だ。

「優斗ちゃん、意外と良い文章書くじゃない!」
ユリカさんはそう言いながら、さらに内容を面白くするアイデアを提案してくれた。

涼子さんも、
「もっと自分の気持ちを出していいんじゃないですか?優斗さんのストーリーには説得力がありますよ。」
とアドバイスをくれた。


スピーチコンテスト本番

そして、迎えたスピーチコンテスト当日。会場には多くの観客と参加者が集まり、それぞれの想いを語る熱い雰囲気が漂っていた。

僕の順番が回ってくると、緊張で手が震えたが、葵さんが優しく微笑みながら見守ってくれているのが視界に入った。それが大きな支えとなり、僕はステージに立った。

「女装サロンラビリンスは、僕にとって人生を変える場所でした。自分に自信が持てず、人前で何かを表現することが怖かった僕が、ここで自分を見つけることができました。」

観客の拍手が響く中、僕は最後までしっかりと話を終えることができた。その瞬間、心に大きな達成感が湧いた。


葵さんへの再告白

スピーチコンテストの結果は優勝こそ逃したものの、観客から温かい言葉をもらうことができ、僕の中で大きな自信になった。そして、その夜、僕はもう一度葵さんに自分の気持ちを伝えることを決意した。

「葵さん、スピーチのとき、あなたが見守ってくれていたおかげで勇気を出せました。本当にありがとうございます。」

彼女は少し驚いたように微笑んで答えた。
「私も、優斗さんのスピーチを聞いて感動しましたよ。」

「僕、やっぱりあなたのことが好きです。そして、これからも女装サロンラビリンスを一緒に作っていきたい。」

葵さんは静かに僕を見つめ、少し考えた後、こう言った。
「優斗さん、私もあなたと一緒にいたいと思っています。でも、このサロンを支える覚悟は簡単なものではないですよ。」

「分かっています。それでも僕は、葵さんと一緒に未来を作りたいんです。」

その言葉に、彼女は小さく頷いた。そして、そっと手を差し伸べてきた。


新たな未来への一歩

その日を境に、僕と葵さんの関係は少しずつ変わり始めた。女装サロンラビリンスはますます成長し、新しいプロジェクトも次々と生まれていく。

そして僕は、この女装サロンが持つ力を信じ、葵さんや仲間たちと共に新たな挑戦に向かって進んでいく決意を固めていた。