女装サロンラビリンスでの日々を通じて、悠斗はますますこの場所に魅了されていった。「女装サロン」という空間が持つ力に気づき始めると同時に、それを支える璃音や他の仲間たちが抱える秘密も垣間見え始める。

ラビリンスの秘密

ある夜、悠斗は閉店後の女装サロンラビリンスに残り、璃音と二人きりで話す機会を得た。いつものように優雅で堂々としている璃音だが、その目には一瞬の不安が浮かんでいた。

「悠斗、女装サロンラビリンスはただのサロンじゃないの。この場所には、私たちが抱えている過去や痛みが詰まっているわ」

璃音の声には、いつもの自信満ちた調子とは違う、柔らかな響きが混じっていた。

「過去……?」

悠斗が問いかけると、璃音は静かに頷いた。

「ここに集まる人たちの多くは、外の世界で傷ついた経験を持っている。『女装サロン』は、その傷を癒すための居場所として機能しているの。でも、同時に、私自身の隠れ家でもあるのよ」

璃音は、自分がこのサロンを創設した理由を語り始めた。彼女自身もまた、かつては外の世界で自分を否定される経験をしてきた。その痛みを抱えながらも、「女装」という形で自分を表現する自由を手に入れ、このサロンを作り上げたのだった。

慧の本音

璃音の話を聞いた悠斗は、他の仲間たちについても知りたいと思うようになった。ある日、彼はサロンの片隅で静かに片付けをしている慧に声をかけた。

「慧さん、ずっと聞きたかったんですけど、どうしてこの女装サロンで働くようになったんですか?」

慧は少し驚いた顔をしながらも、微笑みを浮かべた。

「俺はね、最初はこの場所が怖かったんだ。でも、ここに来て、自分が自由でいられる場所を見つけた気がしたんだよ」

彼は、自分が家庭や職場で感じていた窮屈さについて語った。外の世界では「男らしさ」を求められる一方で、それに反発する気持ちをどこにも吐き出せなかったという。

「この『女装サロン』は、そういう自分を許してくれる場所なんだよ。悠斗も、ここに来てから変わったよな?」

慧の言葉に、悠斗は小さく頷いた。

女装サロンの新しい訪問者

そんな中、女装サロンラビリンスに新しい訪問者がやってきた。彼女――いや、彼は、「蘭(らん)」という名前を名乗り、非常に緊張した様子で店内を見回していた。

「は、初めてなんですけど……大丈夫でしょうか?」

悠斗はホストとして、優しく彼女を迎え入れた。

「大丈夫です、蘭さん。ここは誰でも自分を自由に表現できる場所ですから」

蘭は、外見は男性的だったが、女装に興味を持つきっかけとなったエピソードを語った。彼女の話を聞きながら、悠斗は自分が初めてこのサロンに足を踏み入れた日のことを思い出した。

「女装サロン」という言葉を繰り返し口にするたびに、この場所の特別さが胸に染み渡るようだった。

璃音との距離

次第に、悠斗と璃音の距離も近づいていった。しかし、璃音の中にはまだ他人には明かしていない部分があることを、悠斗は感じ取っていた。

ある日、悠斗は思い切って璃音に問いかけた。

「璃音さん、本当は何かを隠してませんか? 僕に話してくれませんか?」

璃音はしばらく黙っていたが、やがて小さくため息をついた。

「悠斗、あなたにはこれまで話さなかったけど、私にも『女装サロンラビリンス』に救われた部分があるの」

彼女が話したのは、自分がかつて失敗した恋の話だった。その恋は、自分を否定されたことで終わりを迎えたが、同時に自分の本当の価値を見つめ直すきっかけにもなったという。

「この場所は、私にとっての『再出発』の場だったのよ。そして今は、あなたにとってもそうであることを願っているわ」

璃音の言葉に、悠斗は深い感動を覚えた。

物語の行方

女装サロンラビリンスは、ただの女装サロンではなかった。そこに集まる人々が、自分自身を受け入れ、成長していく場であり、その中で生まれる絆が彼らの人生を支えていた。

次第に悠斗は、この場所の重要性をより強く実感するようになり、自分が「ホスト」としてどのように貢献できるかを考え始めた。そして、璃音や他の仲間たちと共に、女装サロンラビリンスの未来を切り開いていく決意を固めたのだった。