ここで姉に続けて僕も何か言った方がいいのか、と思いつつ結局何も言えないまま時が過ぎ去っ

ていく。本来ならばもう少し打ち解けてもいいような雰囲気があったが、微妙な空気が流れてい

るように感じた。

しかしどうやら、初見ではこの中に男の人がいるとは誰も気づいていないようだ。そう思うと、 かくれんぼしているみたいで、なんだか楽しくなってきた。 「えっと、私は吉岡直美といいます。畑中さんとは同じ職場で働かせてもらってます」 若干声が上ずったが、男とはばれないような発声で自己紹介ができた。僕の声はもともと高い方 で、それは大人になってもほとんど変わらなかった。

「直美ちゃんねー。かわいい」 かわいい、の後にハートマークがくっついている言い方だ。そして僕は女子たちの視線を一身に

受けた。正面から、右奥から、はたまた姉の右隣の席の子は身を乗り出してこちらを見ている。

頬が熱くなっていくのを感じた。