西川涼(にしかわ りょう)は、平凡な日常に埋もれた普通のサラリーマンだった。朝の通勤ラッシュを抜け、昼間はデスクに向かい、夜は友人と居酒屋で軽く飲む。恋愛には縁がなく、かといって孤独でもない。

「まあ、俺の人生、こんなもんか。」

心の中でそう呟きながら、時折訪れる小さな幸せをかみしめる日々を過ごしていた。

しかし、その平凡さが、一つの偶然によって完全に崩れ去ることになる。

ある金曜日の夜、涼は取引先の接待の帰り道に古びた小さな神社を見つけた。普段は見かけないその神社は、都会の喧騒から切り離された異質な空間だった。赤い鳥居の奥に続く細い石段が月明かりに照らされている。

「なんだ、こんなところに神社なんてあったか?」

引き寄せられるように、涼は石段を登った。神社の本殿は小さく、周囲には雑草が生い茂っていた。誰もいない、ただの忘れられた場所。そんな印象を抱きながら、涼は何気なく祠の中に目を向けた。

そこには一対の鏡が置かれていた。

一つは割れ、もう一つは真新しいように輝いている。

「…これ、触っても大丈夫かな。」

涼は何かに導かれるように鏡に手を伸ばした。その瞬間——

身体が熱を持ち、視界が一瞬にして白く染まった。