カフェの店内は思った以上に居心地が良かった。アンティーク調の家具に囲まれた空間は、どこか家庭的で温かい雰囲気を醸し出している。
「何になさいますか?」
凛がエプロン姿で注文を取るためにやってきた。その姿がまた似合いすぎて、優は少し恥ずかしくなりながらメニューを指差した。
「じゃあ、この……カフェラテを。」
「了解です。少し待っててくださいね。」
テーブルに座りながら、優は店内を見渡した。お客さんは若い女性が多いが、男性もちらほらいる。女装をしている時なら堂々と楽しめただろうが、今は妙にそわそわしてしまう。
ほどなくして、凛がカフェラテを持ってきた。彼女は優の前にそれを置きながら、小声でこう言った。
「昨日のピンクのワンピース、とっても似合ってましたよ。」
「……!」
優は思わず顔を赤くした。
「え、どうして……?」
「まあ、ちょっとした勘です。」
凛は悪戯っぽく笑いながら、テーブルを離れていった。だが、その一言で、優は彼女がただのカフェ店長ではないことを直感した。
優は凛の言葉を反芻しながら、熱いカフェラテを一口飲んだ。クリーミーな泡立ちと程よい苦みが心に染みる。だが、それ以上に彼女の「勘」という一言が頭から離れなかった。
「まさか……バレてる?」
脳裏に浮かぶその可能性に、優は思わず身を縮こまらせる。けれども、彼女のあの穏やかな表情や声色を思い出すと、悪意は全く感じられなかった。むしろ、ただ純粋に興味を持ってくれているのではないかと思えてくる。
その日の帰り道、優は頭の中で凛との会話を反芻していた。