僕の名前は田中優斗、28歳。職場では何の変哲もない普通のサラリーマンだ。ところがある日、同僚から「ストレス解消に」と教えられたのが、この女装サロンラビリンスだった。
最初は冗談だと思っていたが、好奇心に負けて一歩足を踏み入れた僕は、目の前に立つ葵さんに一瞬で心を奪われた。小柄ながら凛とした立ち姿、美しい笑顔。こんな人がこのサロンを運営しているなんて……。
「興味があって来たんですけど、初心者でも大丈夫ですか?」
なんとか平静を装って質問すると、葵さんは柔らかく笑った。
「もちろんです。ここは女装初心者の方も大歓迎。ラビリンスに迷い込んだら、どんな人でも美しくなれるんですよ。」
それから30分後、鏡の前に座る僕の姿は、完全に「優斗」ではなくなっていた。ふんわりしたワンピースにピンクのウィッグ。軽いメイクを施された顔は、自分でも驚くほど「女性らしさ」を帯びている。
「どうですか?初めてにしてはすごく似合っていますよ。」
葵さんがそう言いながら微笑む。心臓がバクバクと鳴り始めた。気のせいじゃない。僕はこの瞬間、彼女に恋をしてしまったんだ。
しかし、その後の展開は想像を超えていた。
ある日、思い切って葵さんに告白するチャンスが訪れた。勇気を振り絞り、「もしよければ、食事に行きませんか?」と誘うと、彼女は少しだけ困ったように微笑んだ。
「優斗さん、ありがとう。でも……」
「でも?」
「私と付き合いたいなら、“24時間365日女装”をしていただかないといけません。」
「えっ……?」
冗談かと思った。でも葵さんの瞳は真剣だった。
「女装サロンラビリンスは、ただのサロンじゃないんです。ここを本当に愛する人は、女装を自分の一部として受け入れる覚悟が必要です。」
まさかこんな条件が提示されるとは。僕は言葉を失った。
迷いと決断
その夜、僕は一晩中考えた。職場の同僚にバレたらどうしよう。家族には何て説明すればいい?でも――葵さんへの想いはそれ以上だった。
翌日、再び女装サロンラビリンスを訪れた僕は、覚悟を決めて彼女に伝えた。
「僕……女装、やってみます。」
葵さんの目が一瞬驚きで見開かれ、次に彼女は優しく微笑んだ。
「そうですか。それじゃあ、ラビリンスの扉はいつでも開かれています。」
トレーニングの日々
こうして、僕の女装ライフが始まった。ウィッグの扱い方、化粧のコツ、ドレスの着こなし。葵さんは親身になって教えてくれるが、それだけではない。彼女が見せる真剣な表情や細やかな気遣いに、ますます惹かれていく自分がいた。
「優斗さん、最近は表情まで柔らかくなりましたね。」
葵さんに褒められるたび、胸が温かくなる。だけど、彼氏になるための条件を本当に満たせるのだろうか?
コメディタッチの挑戦
日常生活ではハプニング続きだ。スーパーで女性姿のまま「男性用のシェービングフォーム」を買おうとして店員に不審な目で見られたり、宅配便を受け取る際に「え、奥様でしたか?」と言われたり。
「これが24時間365日の試練ってやつか……」
ため息をつきながらも、少しずつ日常が楽しくなっている自分がいる。