「女装への助走~オンナノコの秘密☆~」 第4話 初めてのジュエリー店

いつもは残業をする俺だが気持ちが浮足立ち、もう仕事どころではない。
まるで会社帰りに彼と待ち合わせをする乙女のようだ。

『キンコーンカーン』

終業時間のベルが鳴る。
俺は気持ちとは裏腹に冷静さを装い、吉村君に告げた。
「今日は用事があるので先に帰る、君も今日は早く帰りなさい」

足早に駅前のジュエリー店に向かう。
外から見る店内はキラキラと輝いて見える。
こんなオジサンが一人で入っていくのはかなりの勇気だ。
しかし、もうここまで来たのだから後には引けない。
『よし!行こう!』
自動ドアが開いた。

「いらっしゃいませ~」
『そんなに大きな声を張って俺を歓迎しないでくれ』
心の中でそう叫ぶ。

客があまりいないのが幸いなのか不幸なのか、店員がそばに寄ってきて言った。
「どなたかにプレゼントですか?」
『何を言っているんだ!俺が身に付けるんだ!』
そう言えるはずもなく…

「…妻にプレゼントです」

そう言うと、店員があれこれとうるさく押し付けてきたが、俺は何も買わずに店を後にした。
どうも気後れしてしまうのだ。