「女装への助走~オンナノコの秘密☆~」 第2話 憧れのイヤリング

俺は今日も残業をこなし、帰路についた。
我が家の窓から温かい光りがこぼれている。
しかし、最近の俺は心がすさんでいるのか素直になれない。

「…ただいま」
「あなた今日もお疲れ様」
「……」
「今日、香穂とケーキを焼いたのよ」
「君たちはいいね…1日中自由に遊んでいられて」

妻と娘が作ってくれたというのに、なんという言い草だろう。
一家の大黒柱がこんなことを言ってはいけないとわかっていながらも、つい悪態をついてしまう。

最近、特にこうなのだ。
女性らしさへの憧れ。
それを叶えられない俺。
自分自身へなのか、それとも世間へなのか苛立ちを隠すことが出来ない。

「あなた…できれば香穂のケーキは食べてあげてね…」

少し落ち込んだであろう妻の声のトーン。
顔を見ることもできず、逃げるように2階の寝室に上がる。

ふと見ると、鏡台に妻のイヤリングが置いてあった。
「まったくアイツは、片付けもろくにできないのか」
「でも…センスの良いイヤリングだな…」

妻に見られたらどうしようと思うよりも、それを耳に付けた自分を見たい衝動を押さえきれなかった。
「もしかしたら妻よりも俺のほうが似合うのでは?」
そっと金色に光る薔薇の形をしたそれを耳に当ててみる。

『トン、トン、トン…』

2階に上がってくる音。
まずい!妻が2階に上がってきた。
とっさにイヤリングをポケットにしまう俺。

「あなた何度も呼んでいるのに返事がないと思ったら」
「あ…ああ、今行く」

おっと、危ない危ない…
後で戻しておかなくては…