「女装への助走~オンナノコの秘密☆~」 第8話 綺麗と言われたかった女と、言えなかった男
今日は休日。
外は気持ちの良い春の陽気だ。
しかし、無趣味の俺はいつもゴロゴロと家にいることが多い。
まあ、今では女装が趣味なのだが…。
暇を持て余した俺は、何気なく妻の顔を見た。
すると、自然とこんな言葉が出たのだ。
「お前、歳の割にキレイだな」
妻は、一瞬キョトンとしたが、すぐに顔を真っ赤にし嬉しそうにはしゃぐ。
「えっ、なに!?どうしたの、あなたにそんなこと言われたの初めてね」
「どこの化粧品使ってるんだ?」
「え?」
「化粧品にこだわりとかあるのか?」
「いつも同じメーカーの使ってるけど…どうして?」
「いや、なんでもない」
「変なの!でも、あなたが私の事綺麗って言うなんて…たまにはデートでもする?うふふ…」
実は妻の使っている化粧品を自分も使いたく、聞き出そうとしただけでここまで妻が喜ぶとは思ってもいなかった。
喜ぶ妻を見ていると今までの態度を深く反省し後悔した。
女装して初めて気が付いたことがある。
それは女性なら『キレイ』と言われ、気にかけてもらいたいということだ。
俺はそれを怠っていた。
平然と食事の支度をしてもらい、時には下の世話までしてもらっていたのだ。
恥ずかしい…なんというダメな夫なのだろう。
俺だって、はじめてラビリンスでフル女装をしたときに言われた「綺麗」の言葉がどれほど嬉しかったか。
今ならわかるんだ。
『すまん…許してくれ』
と心の中で妻に懺悔した。