「女装への助走~オンナノコの秘密☆~」 第9話 解放された俺
最近の俺は変わった。
自分の感情を押し殺して黙々と働いていたころとは違い、人にも優しくなれたような気がする。
部下の吉村君には違う意味で腹立たしい気持ちは正直今でもある。
『何でコイツは、スッピンでこんなに綺麗なんだよ…女装すればもっと輝けるのに』
あの大きな瞳と長いまつ毛は不公平だと思っている。
「吉村君、この前頼んだファイルなんだけどね」
「あ!すみません!すぐに用意します!」
「使うのは午後だから急がなくてもいいよ」
吉村君は、急に変わった俺に不思議そうな顔をしている。
キョトンとした吉村君の表情は、女性よりも女性らしい。
「ふふ、吉村君はズルイな」
「へ?何がですか?」
「いや、なんでもなーい!」
家庭内でも妻に悪態を付くことはなくなり、女性としてたまには褒めている。
娘も「パパ変わったね」と妻に言っているようだ。
ラビリンスに通うようになってからは変な話だが、女性の気持ちがわかるようになり家庭円満である。
毎日が楽しくて仕方がない。
周りの物がキラキラと輝いて見え、とても充実した日々を送れているからだ。
ラビリンスの担当者にもこう言われた。
「あんずちゃん、最近顔つきが変わったわね」
「最初の頃はなんか影があるというか…ちょっと近づきにくい感じだったわ」
うーん、思い当たる節がありすぎる!
「うふっ 全部ラビリンスさんのおかげよ」
「ここに出会わなければ今のあんずはなかったのよ」
とびっきりの笑顔で感謝の気持ちを伝えた。