それから数日間、父とはまともに会話ができなかった。食卓では必要最低限の言葉しか交わさず、僕の心は冷たく沈んでいた。
ある日、沙織が突然僕に提案をしてきた。
「今度の日曜日、3人で出かけない?」
「えっ、3人で?」
沙織の提案に戸惑ったが、断る理由も見つからなかった。そして迎えた日曜日、僕たちは車で少し離れた山の中にある温泉旅館へ向かった。
車内ではほとんど会話がなかったが、沙織が明るく場を盛り上げようと努めていた。温泉に到着すると、僕と父はそれぞれ男湯へ入ることになった。
浴場で父と二人きりになったとき、僕は思い切って話しかけた。
「父さん……怒ってる?」
父は少し驚いたように僕を見て、低い声で答えた。
「怒ってるというより、困惑しているんだ。お前が何を考えているのか、正直分からない。」
僕は自分の思いを伝えるべきだと思った。
「僕は……ただ、自分らしくいたいだけなんだ。」
その言葉に父はしばらく沈黙したが、やがてぽつりとつぶやいた。
「沙織が言ってたよ。人はそれぞれ違うんだってな……。」
父の声にはわずかに柔らかさが混じっていた。それは、彼が少しだけ理解しようとしている証拠のように感じられた。