涼と奏が初めて気持ちを確かめ合ってから数週間後、女装サロンラビリンスはいつもと変わらないにぎやかな雰囲気に包まれていた。サロンのスタッフたちが新しい衣装やメイクの提案をしている中、涼は奏と一緒にカフェスペースでゆったりとした時間を過ごしていた。

その時、入り口のベルが鳴り、新しい挑戦者が現れた。涼は無意識にその人物に目を向けたが、思わず息をのんだ。

そこに立っていたのは、涼や奏と同年代と思われるスラリとした体型の男性――いや、今は女装姿に身を包もうとしている挑戦者だった。彼の瞳には強い意志が宿り、サロン全体を見回すその姿に、どこか圧倒される雰囲気があった。

「初めてのご利用ですか?」

スタッフが声をかけると、その挑戦者ははにかみながら頷いた。

「ええ、友人に勧められて…。僕の名前は葵(あおい)と言います。」