「女装サロン」という言葉を初めて耳にしたとき、僕は一体何がそこにあるのか想像もつかなかった。友人の圭介が好奇心に駆られて話してくれたその場所は、ただの「変わった遊び場」だと思っていた。そんな僕が、まさかその扉を開けることになるなんて、誰が予想しただろう。
「一回行ってみればわかるよ。ハマるやつはハマるし、そうじゃなきゃそれまでさ。」
圭介の言葉に半ば流される形で、僕は西東京の雑居ビルに足を運んだ。そのビルの片隅に、目立たないながらも煌びやかな看板が掲げられていた。
「女装サロンラビリンス」
くすんだピンクのネオンに、やけにきらめくゴシック体の文字が並ぶ。それは現実感と非現実感の境目にあるような不思議な空間への入り口だった。
ドアを開けると、そこはまるで別世界だった。ビロードのカーテン、柔らかな間接照明、香水とシャンプーの混じり合った香りが漂う空間。鏡張りの壁に囲まれた部屋の中心には、ひとりの女性が立っていた。いや、正確には女性の姿をした人物。派手な巻き髪と鮮やかなドレスをまとい、しなやかな仕草で僕を迎え入れた彼女――いや、「彼」が、ラビリンスのオーナーだった。
「ようこそ、女装サロンラビリンスへ。初めてのお客様ですね。」
その言葉に、僕は緊張しながら頷いた。