カウンセリングルームと呼ばれる個室で、僕はオーナーの「リナ」さんと向き合っていた。細やかな問診が続き、彼女は真剣な眼差しで僕の話を聞いてくれる。どうしてここに来たのか、何を期待しているのか。そして、なぜ「女装」に興味を持ったのか。
「正直、遊び半分というか、友人に勧められて……」
曖昧に答える僕に、リナさんは優しく笑って言った。
「最初はそれでいいんです。でも、扉を開けたからには、自分の中に新しい何かを見つけるかもしれませんよ。」
そう言うと、彼女は色とりどりのウィッグと衣装を並べて見せてくれた。ピンクのフリルのブラウス、真っ赤なタイトスカート、柔らかな素材のワンピース……どれも僕には縁遠いものばかりだった。
「どれが気になりますか?」
僕が戸惑いながら手を伸ばしたのは、控えめな花柄のワンピースだった。リナさんはそれを手に取り、「似合いそうですね」と微笑む。
メイクルームでの時間は、思っていたよりも楽しいものだった。リナさんの指導のもと、初めて触れる化粧品の感触に驚きながら、鏡の中の自分が少しずつ変わっていく。完成した姿を見て、僕は息を呑んだ。そこには、普段の自分とは全く違う「誰か」が立っていた。